2020.10.10

愛を知る米:後編

お米マイスターの資格も持つ安保大輔さんからは、鹿角のお米への思いが溢れ出す。

「育苗に工夫をするのは、鹿角の米作りの特徴と言えるかもしれません。鹿角が中山間地に位置しているので山の中の田んぼをひとつにまとめるのが大変で、昔から小さな面積の田んぼをたくさんの枚数持つ傾向があります。作業は平野部に比べると大変です。だから、直播きや密苗栽培といった作業を軽減する栽培手法も導入しています。淡雪こまちという品種は直播、すなわち田んぼに直接種もみを播きます。作業の効率は圧倒的に上がりますが、鳥に食べられるリスクもあります。だから種もみが泥の中に埋まるよう、鉄コーティングをするなどの工夫をします。密苗も苗代に植える苗の密度を高めて、田植えの効率を上げるための工夫です。ずっしりと重い苗代を運ぶのは、本当に大変なんです。やってみたらわかります」。いやそれは、腰が……、スイマセン。

「気候が冷涼というのも、中山間地の特徴です。稲はそもそも暖かい土地の作物です。寒い土地で収量を得るためには、栽培する品種の工夫も必要だし、手もかけ、目もかけないと立派には育たない。しかし、大変だからこその〈いい米〉という部分もあります。寒暖差が大きいことは、米の食味を良くします。粒は他の地域に比べて小さいですが、粒立って、のどごしが良いのも特徴です」。

 10月初旬。刈り取りの季節が訪れた。黄金色に輝く田んぼは日本人なら誰もが懐かしいと思える光景だ。しっかりひと粒ひと粒に目をかけ、手をかけ、愛情たっぷりに育てている作り手たちには、この風景はまた格別なのだろうなと思う。計り知れない米への愛が、鹿角の米をうまくする。今年の作柄は平年よりも良い見込みだ。

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